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The Child ザ・チャイルド

ドイツ映画 (2012)

独自の世界観を持った映画。「10歳の少年が、15年前に2件の殺人を犯した」という設定にまず驚かされる。この事象は、最初、クリプトムネシアという輪廻転生を前提とした前世回帰によって説明されようとするが、観ていて眉唾に聞こえてしまう。それでも。主人公の10歳のサイモン〔余命がゼロに近い脳腫瘍の患者〕は、頑なにこの説を信じている。もう一つの映画の中核は、『橋』というキーワードで示される おぞましい会合と、15年前に起きた小児性愛者の連続殺人。10歳の少年が主役の一方を占める映画だが、この映画のDVDは、本国ドイツで「FSK16」に指定されている。それより厳しいものは、どんなセックス・シーンも許される「FSK18」しかない。つまり、10歳のサイモン役のChristian Traeumerは、何年も自分の主演した映画が観られない。そのくらい厳しい制限だ。映画は、その大人向けのシーンと、末期の脳腫瘍でいつ死んでもおかしくないサイモンの頭の中に残る15年前の記憶という全く次元の異なる2つのテーマが絡み合って進み、意外な真犯人と、社会的通念と矛盾しない、「15年前の記憶」への回答を与える。そして、最後にサイモンを襲う予期された死。しかし、そこには暗さがない。映画の最後は、明るい未来を期待させるシーンで終わる。小児性愛の暗い内容に終始してきただけに、ラストが心地良いと、観た後もすっきりとできる。もう一度書くが、これほど変わった映画は観たことがない。全編英語だが、これがもしアメリカ映画なら、こんな複雑なストーリーにはしなかったろうし、サイモンにこれほど重い役を担わせることなどなく、もう1人の主役エリック・ロバーツの一人舞台の単純な映画にしたであろう。

脳腫瘍で、全ての治療が効果なく、死を待つばかりの10歳のサイモン・サックス。彼の面倒を2年間見てきた看護婦のカリーナ・フリータックは、最後の誕生日プレゼントとして、病院のフィードバック部門に連れて行き、幸せな頃のサイモンを再体験させようとする。サイモンは ティーフェンジー博士に催眠をかけられると、結果として、封印されていたサイモンの記憶が初めて表面に出てくる。それは、サイモンが15年前に人を殺したという異様な記憶だった。この予想外で困った状況を解決しようと、フリータックは恋人に近い関係の弁護士のロバート・スターンに相談する。最初は、「10歳の子が15年前に」と、バカにして相手にしなかった弁護士だが、サイモンが、実際に 倉庫で死体を発見すると、事態を直視せざるを得なくなる。重病の子が、辺鄙な場所にある死体の場所など知っているはずがないからだ。一方、弁護士にも、その直後から変なことが起こり始める。最初は、生まれた時に死んだ息子が、まだ生きているという映像証拠が怪しい人物から送られてきたこと。弁護士は、死体のことで、サイモンに質問をしようと病院に行くが、そこで、斧を使った別の殺人のヒントを教わる。ヒントの場所を探し当てると、そこには2体目の死体があった。その死体の手に握られていたのが、ペットの動物の霊園の新聞記事。サイモンは、それを絵にも描いていた。そして、サイモンは、夜、そこに出向くと、ペットの墓から小さな子供の頭蓋骨を掘り出す。弁護士と看護婦とサイモンは、真相を訊こうと、ティーフェンジー博士の建物に行くが、博士は惨殺されていた。博士殺害の疑いをかけられた弁護士の一行は、弁護士が助けを借りたボーシャットの手引きで淫売宿に隠れる。そこで、サイモンは、初めて「小児性愛者を殺し回っている連続殺人犯を自分が殺した」という背景を明らかにする。弁護士がSOSを出して密会したエングラー刑事は、「橋」で子供を弄ぶ秘密のパーティが長年続いていると明かすが、車を追って来たオートバイの男に射殺される。逃げ出した弁護士は、ボーシャットの助けを借りて、「橋」について知ってそうな男の住処に行き、極限まで痛めつけて最初に行くべき場所を聞き出す。そこに行った弁護士とサイモンは、目隠しをされて、別の場所に連れて行かれる。しかし、そこにタレコミの電話があり、2人の正体がバレてしまう。サイモンは、そこに住んで20年、小児を弄んでは殺してきた変態老人の犠牲になりかけるが、危うい所を弁護士に救われる。しかし、そこに、別の人物(真の犯人)が現われ、サイモンをさらってしまう。弁護士と看護婦は、何とか「橋」の場所を突き止め、そこに乗り込むと、待っていたのは、死んだはずのエングラー刑事。すべての元凶はこの男にあった。エングラーは、弁護士に拳銃を突きつけて、変態拷問男のなりをさせ、“サイモンがその犠牲者” だという状況を作り上げる。そこに、小児性愛者を15年前に殺した男がやってきて、弁護士の「なり」を見て、成敗しようとする。しかし、弁護士は、自分も犠牲者であることを巧みに示し、男はどうすべきか迷うが、それを見たエングラーは男を射殺してしまい、次いで、弁護士を殺そうとする。サイモンはじっとその機会を待っていて、千枚通しのひと突きでエングラーを殺す。これで事件はすべて解決し、感謝した弁護士は、サイモンを自分の息子のように可愛がるが、その最高の瞬間に、サイモンの命の火は消える。「またすぐ会える」と言い残して。弁護士と看護婦は、火葬にしたサイモンの遺灰を、サイモンが憧れていた海辺にまくが、そのすぐ横でサイモンの好きだった赤い凧を揚げている少年がいる。それは、10年前に誰かの養子に違法に買い取られた弁護士の息子だった。その子は母斑があるので、弁護士の失われた息子であることは間違いないが、サイモンが示唆したことと あまりにもよく一致しているので、サイモンの輪廻転生である可能性も捨てきれない。

ドイツ映画だが、サイモン役は、アメリカ人のクリスチャン・トレーマー(Christian Traeumer)。ただし、Traeumerはドイツ系の家族名。誕生日は、2000年3月25日。11歳で、この映画の主役に選らばれたと書かれているので、出演時は11歳ということになる。この映画の前に2本の映画に出ているが、何れも端役なので、この作品が始めての本格デビュー。この主役で、2013年度のYoung Artist Awardsの主演賞候補になったが、以前紹介した『インポッシブル』のトム・ホランドに奪われた。これは仕方がないであろう。演技の巧さは同程度だが、映画の「格」が違いすぎるので。クリスチャンは、この映画と同じ年に製作されたショート・ムービー『Bolero(ボレロ)』で、同じ年のYoung Artist Awardsの「ショート・ムービーの主演賞」を獲得している。これも、かなりユニークな作品だ(下の写真)。


あらすじ

一人の丸坊主の少年が移動式ベッドに乗せられて集中治療室に搬送される。付添いの看護婦は、「お願い、起きて」と顔に触るが、反応はない(1枚目の写真)。「サイモン、息をして」。治療室に着いたサイモンは、計器につながれる(2枚目の写真)。隣のベッドの老年の男性がそれを見ている(3枚目の写真、矢印)。  

映画の冒頭のICUのシーンから恐らく2年後。催眠状態でベッドに横になったサイモンに、医者が話しかける。「君は、幾つだいサイモン?」。「10歳」。「今日は、君の誕生日かな?」。「はい」。「誕生日には何が欲しかったんだ?」。「テニス・シューズ」。床には、脱いだテニス・シューズが置いてある。「裸足で歩くのが好きかい?」。「はい」。それまで、様子を見守っていたサイモン専属の看護婦フリータックが出て行くように命じられる。「サイモン、いいかね、君が行ってみたい、地球上で一番美しい場所を想像してごらん」(1枚目の写真)「何が見えるか話して」。「浜辺」。「どこかだか分かるかい?」。「海に行ったことはありません」。「そうか」。「波の音が聞こえる?」。「はい」。「その浜辺は、何がそんなに素敵なんだい?」。「あなたが死んだら、お気に入りの場所になります」。「私達は、まだ死んでないぞ」。「分かってます」。「他に何が見える?」。ここで、映像が切り替わり、サイモンが、草の生えた砂の丘の上から海を見晴るかす(2枚目の写真)。海鳥の鳴き声が聞こえる。正面には。砂浜の上にアイスクリームを売る小さな店がある。「アイスクリーム・スタンド」。「アイスクリーム・スタンドには、ドアがあるか?」。サイモンは、砂の上を裸足で歩いて、スタンドに近づく(3枚目の写真)。「はい。赤いドアが」。「そうか。開けて中に入りなさい」。「入りたくない」。「サイモン、ドアを開けて中に入るんだ」。サイモンはドアを開け、真っ暗な中に入る。海岸の仮設の小屋のように見えたのに、中に降りて行く階段が見える(4目の写真)。「ドアを閉めて」。真っ暗になる。「何が見える?」。「何も。真っ暗」。「正面のスイッチを探して」。「見つけた」。「今度は何が見える」。「階段」。「じゃあ、階段を降りて」。サイモンは薄暗く長い階段を降りて行く。広い空間に出る。「何が見える?」。「何かの工場みたい」。「他に何がある?」。「エレベーター」。「エレベーターに乗って、一番下のボタンを押すんだ」(5枚目の写真、矢印)。扉が閉まり、サイモンは、「11」と書かれたボタンを押す。すごく深い。エレベーターは軋りながら降下を始める(6枚目の写真)。「停まったよ」。「素晴らしい。扉を開けて。中に何が見える?」。その言葉とともに、誰かがナイフで誰かを刺して血が飛び散る(7枚目の写真)〔一番納得がいかないのは、医者がサイモンを誘導しているように見える点。これは、サイモンの脳の中に埋もれた潜在記憶を呼び出すための試みの医者が、「開けて中に入りなさい」「正面のスイッチを探して」「エレベーターに乗って、一番下のボタンを押すんだ」などと、既にそこに何があるか分かっているかのような指示を出すのは、本質的におかしい〕      

救急車のサイレンが響く。暗い路地で、中年の男性が車を停めて誰かを待っている。そこに、サイレンの音を消した救急車が近づいて来て停まる(1枚の写真)。救急車から降りて来たのは、先ほどのフリータック看護婦。男が、「デートにはもっとロマンチックな場所がいいんじゃないか?」と言うと。「そんな理由で電話したんじゃない」と答える。「前に電話した時は、二度と会いたくないって言ったじゃないか」。「あの時は、腹を立ててたけど、今は状況が違うの」〔2人が、恋人に近い関係にあることが分かる〕。「救急車を盗んだのか?」。「借りただけよ。あなたに、新しい依頼人を連れてくるため」。そう言うと、フリータックは救急車の後部ドアを開ける。救急車の真ん中にはベッドが一つ置いてあり、1人の少年がマットレスを立てて座っている。それを一目見た男は(2枚目の写真)、「俺は弁護士で、子守じゃない」と言う。それを聞いた少年は、「僕は10歳。弁護士がどんなものか知ってる」と言う。「ロバート、サイモン・サックスに挨拶してあげて」。サイモンは、手を差し出して待っている。背を向けていた弁護士は、「やあ、坊や」と言って握手する。「僕、あなたの名前知ってるよ。ロバート・スターン弁護士。彼女言ってたよ、あなたは街一番の弁護士だって」。「そうか、何でも信じのはやめるんだな」。「僕、弁護士が要るんだ。男を1人殺した」。弁護士は、本気にしないが、恋人の頼みなので、「その不幸な犠牲者は誰だい?」と訊く。「知らないよ」。弁護士は、その返事に「ふざけるんじゃない」と呆れるが、サイモンは、「斧を使ったんだ。15年前だよ」と言い(3枚目の写真)、完全に信用を失くす。「15年前? 15年前に誰かを殺しただと? まだ10歳なのに?」。  

その時、いつの間にか救急車から出て、近くの建物の入口まで辿り着いていたサイモンが、「ここだよ」と声をかける(1枚目の写真)。「サイモン、待って」。しかし、彼は、勝手に中に入って行ってしまう。弁護士は、あまりの荒唐無稽な話に、サイモンかフリータックのどちらかが狂ってると言い、動こうとしない。フリータックは、「サイモンは、今、神経医学の患者なの」と正当化しようとするが、弁護士は「精神医学の方が似合ってるじゃないか」と反論〔キチガイだと言いたい〕。看護婦は「彼は、頭にゴルフボール大の腫瘍があるの。長くは生きられないわ」と同情を誘う。「じゃあ、最後の日々を、俺達ときれいな場所で過したいって訳だな」。「誕生日のプレゼントに、あの子をフィードバック部門に連れていったの」〔心理学用語のフィードバックは「記憶の中にある情報を引き出すこと」を意味するが、得てして否定的な情報が表面化してしまう可能性があり、サイモンがこれに当たる〕。フリータック看護婦は、それを「前世治療〔reincarnation therapy〕」と呼んでいる〔これについて調べてみると、「人々は、しばしば原因不明の苦痛によって苦しめられる」というのが、その発想の原点にあるらしい〕。「ここで、何する気だ?」。「サイモンにはあと数日しか余命がないの。化学療法も放射線療法も効果がなかった」。ここで、サイモンの叫び声が聞こえ、2人は、ようやく、「余命数日」の子が、真っ暗な建物に中に1人で入って行ったことに、改めて気付く。2人は急いで建物に入って行く。真っ暗な中を、小さな懐中電灯を頼りに歩いているサイモンの頭の中を、1つの言葉が過(よ)ぎる。「もし私に、『橋』で邪悪な男を殺させたくなかったら、私がここで、正しきことをしていると信じさせ給え」。2人はサイモンを停めようとするが、サイモンは重い咳をしながら、どんどん先に歩いて行く。そして、ある場所まで来ると、「これだ!」と叫ぶ(2枚目の写真)。弁護士は、足を踏み外してしまうが、そこにあったものは、15年前に殺された男の白骨化した死体だった。その首には、五芒星でも二重三角でもない特殊な、しかし、如何にもカルト的なペンダント・トップが付いていた(3枚目の写真、矢印)。  

白骨化した死体の発見は、当然、警察を動かす。しかし、翌日、警察署を訪れた2人は、2時間も待たされ、弁護士はイライラする。そして、やっとのことで現われた警官が、「こんな悪い冗談のために、200ドルもらったのか?」を意地の悪いことを言うが、弁護士は「時給500ドルだ」と言い、「あんたらに2時間分の料金を請求しようか」と言う〔たぶん、これは待たされたことへの腹いせの冗談で、弁護士は恋人のフリータックのためにタダで働いているのだろう/この映画の大きな謎の1つは、サイモンの両親も祖父母も兄弟も登場しないこと。あとで、フリータックは2年間サイモンの看護をしてきたと分かるが、その間の入院・治療費は誰が払っているのだろう?〕。警官2人のうち、テーブルの中央に座っているエングラー刑事が重要な役を果たす。エングラーは、弁護士に、「スターンさん、あなたが昨夜倉庫で発見された死体は、15年前のものだと言われるのですね?」と訊く。弁護士は、「私は、あの子がやったとは言ってない」と答え、直接サイモンに訊くよう勧める。エングラーは、さらに、「死体があそこにあるとなぜ分かったんです?」と訊く。それに対し、弁護士は、「それはティーフェンジー博士に訊くべきですな。催眠中に精神科医があの子に何て話したか、私に分かるとでも?」と、これも他人への転嫁。もう1人の警官は、「なるほど、精神科医があの子に囁いたのかも」(1枚目の写真)「もっと早く気付くべきだった」とエングラーの方を向く〔先ほどコメントしたように、催眠中、医師は、サイモンを工場の中に連れて行った。サイモンが行ったのでなく、医師が行かせたのだ。なぜ、医師は工場のことを知っていたのだろう?〕。場面は変わる。その日の夜、弁護士の自宅に電話がかかってくる。それは、意図的に変調させた声で、「今晩は、スターン君、郵便物を見たまえ」と言う。「誰だ?」。「素直に開けるんだな。一番上の封筒だ」。弁護士が一番上の封筒を手に取る(2枚目の写真、矢印)。開けると、中にはDVDが入っていた。「よろしい。では、それを一緒に観ようじゃないか」。自分が見られているようなので、弁護士は辺りを見回す。「望みは何だ?」。電話は切れていた。弁護士がDVDをプレイヤーに入れ、TVを点けると、いきなり、「ロバート、カメラはやめて」という声が聞こえ、元妻をお産に連れていく車内の様子を撮ったビデオが流れる。次は、産科病院の手術室で、生まれてきた赤ちゃんを医師が生かそうとするが、死んでしまった時の映像。赤ちゃんの首には、弁護士にも記憶のある母斑がくっきりと映っている(3枚目の写真、矢印)。過去における一番悲しい記憶なので、弁護士はすぐ再生を止める。  

間髪を入れず電話がかかってくる。「もう一度つけるんだ。残りを見逃したくないだろ?」。「お前は誰だ?」。「『なぜ、このビデオを送りつけたか?』、と訊くべきじゃないかね?」。「どこで、手に入れた? お前は誰なんだ?」。「君を煩わせてしまい、申し訳ないと思う。いい子になって、ビデオを観たまえ。君に提案がある」。さらに、「君は、昨夜死体を見つけた。私は、誰がその男を殺したか知りたい」とも言う。「なら、警察に行くんだな」。「警察には何もできん。だから、君を巻き込むことにした。君が、殺人犯を引き渡せば、最高のお返しを用意している」。ビデオには、男の子の誕生日会に集まった子供達の映像が映る。まっ先にテーブルに着いた子が、バースデーケーキのロウソクを吹き消そうと意気込む(1枚目の写真)。カメラは男の子の背中に回り、首にくっきりと残る母斑を映し出す(2枚目の写真、矢印)。それは、生まれた時、すぐ死んでしまったハズの息子の母斑と同じ形だった。弁護士:「フェリッスは死んだ。死んだのを見た」。「君は、正確に 何を見たんだ? 息が止まるのを確認したか? そうじゃなかろう。その子が、いま、どこにいるか知りたくないか?」。ここで、映像は、暗い室内で、イスに縛り付けられた元妻に変わる。「君の、前の奥さんは分かるな? よく見ておけ、スターン君、これが、生きている彼女の見納めになるかもしれんぞ」(3枚目の写真)。「望みは何だ?」。「弁護士らしい質問だな。君のオファーは何だ?」。「お前のオファーは何だ?」。「喜んで答えよう。私のために、殺人犯を見つけ出せ。息子を返してやる。24時間やる」。  

24時間しかないので、弁護士は、翌朝、すぐ病院に向かう。サイモン、ティーフェンジー博士、フリータックに会うためだが、博士はいない。弁護士が入口から急いで中に入ってくると、廊下と交差する場所で、車椅子の患者とぶつかり(1枚目の写真、矢印)、2人とも廊下に投げ出される。弁護士は、「申し訳ない。うっかりして」と謝る。車椅子に戻った患者は、「あんたは脱走犯かね?」と、急いでいたことへの冗談を言う。「弁護士です」。「なら。もっと悪い」。「損害はお支払いします」。看護士は、病院の制度上 不要だと告げる。そして、「ロザンスキーさんは、2度心臓発作で倒れました。今回、ペースペーカーが無事だったのは、幸いでした」と付け加える。ロザンスキーは、「わしには、まだなすべきことがある」と言う〔3度目の発作で死ねない〕。弁護士は、「返す返すも、申し訳ない」と謝ると、看護士は、「なら、証明して下さい」と言う。そして、弁護士に、床に ひざまずかせ、床に落ちたロザンスキーの聖書を拾わせる。こんなにくどくどと紹介した理由は、このロザンスキーこそ、最初の節で、ICUのサイモンのベッドの隣にいた男だったから〔サイモンが見つけた死体も、ロザンスキーが殺したもの〕。弁護士が、サイモンの病室を訪ねると、そこには、花を持った女の子が来ていて、「あなた、サイモンの弁護士?」と尋ねる。「たぶん」(2枚目の写真)〔サイモンの頭は丸坊主で、上にタオルが載せてある〕。「彼、あなたのこといっぱい話してくれた」。女の子が出て行くと、サイモンはタオルを外す。「カリーナ〔フリータック〕は、あなたはもう来ないじゃないかって。でも、僕は、来るって知ってた」。「気分はどうだい?」。「今日、それとも、それ以前?」。窓には、3枚の絵が貼ってある。うち2枚は、ドームのある建物と海岸だと分かる〔いずれも、重要なヒント〕。「なぜ、僕の顔を見ないか知ってるよ」と言うと、サイモンは引き出しからカツラを取り出して頭にかぶる。「これ、僕の髪の毛だよ。インク・キラーに殺されると分かった時、切ったんだ」。「インク・キラー?」。「僕が4歳の時、頭の後ろにインクのシミができた。薬で消えるはずだったんだけど。今思うと、それは、化学療法だったんだ。インターフェロンが効かなくなって、ICU行きさ」。そこに、フリータック看護婦が入って来る。「あなたは死ぬところだった。あなた、ほぼ1週間、昏睡状態だったのよ」〔これは、サイモンがICUに入った時のことをはしているのを聞き、その続きを話したもの。実は、映画の冒頭のシーンに該当する〕。ここで、彼女は話題を変え、一昨夜の事件の顛末を話す。「幸い、もう一度ここで働くことができた。あなたを誘拐した疑いで停職処分になってたのよ」。サイモン:「あなたが精神病院に入れられたって大丈夫。いい弁護士さんがいるもん」(3枚目の写真)。フリータックも、サイモンと同じことを弁護士に言う。「あなたが、また現われるとは思わなかったわ」〔昨夜の “フェリックス” の電話がなかったら、会いにこなかっただろう〕。サイモン:「それって、僕の事件を引き受けるってこと?」。弁護士は即座に否定し、情報を収集に来ただけだと答える。「どんな?」。「君の誕生日に起きたこと」。「フィードバック部門のこと?」。「その通り」。  

弁護士は、窓に貼ってある絵を指して、「絵が巧いな」と褒める。その中の海岸の絵について、サイモンは、横に置いてあった雑誌を取り上げ、海岸に立つ “翼を広げた天使の像” を見せ、「世界中で一番きれいな砂浜なんだ」と紹介する(1枚目の写真、矢印)。「行ったことがあるのか?」。「ううん。でも、行くんだ。今の人生じゃ無理でも、次の人生でね」(2枚目の写真)。そして、ティーフェンジー博士による催眠療法中に、頭の中を過(よ)ぎった “草の生えた砂の丘の上から海を見晴るかした” 映像に、①打ち寄せる波と、②真っ赤な凧の映像が重なり合う(3枚目の写真)〔この凧は非常に重要〕  

「ティーフェンジー博士は、君に何をしたんだ?」。「『地球上で一番美しい場所を想像してごらん』って言った」。「それで、そこには行けたのか?」(1枚目の写真、矢印は真っ赤な凧の一部)。「でも、結局は、工場に」。「博士は、君を死体まで導いた?」。「違うよ」。「君は、その記憶をよく思い出すのか?」。「時折… 最初見た時、僕は、あの男を殺したなんて思わなかった。でも、それから、斧を使ったことを思い出した。番号も思い出した」。フリータック:「何の番号?」。「知らない。ドアに11って番号が」。「ドアの後ろには何が?」。サイモンは額に皺を寄せて考える(2枚目の写真)。ドアの向こうに見えたのは、断末魔の男の顔と、そのすぐ右上にいるマントを被った男〔この男が殺人犯〕。そして右側には、死体が首にかけていたペンダント・トップの不思議な記号が大きく見える(3枚目の写真、矢印は記号)。「僕は、とっても悪い人間だったと思うよ」。  

弁護士は、コンテナ倉庫を訪れる。そして、管理人に、11番のことを訊くが、男は何をされても口を割らない。そこに、以前弁護を引き受け、貸しを作ったあった荒くれ男ボーシャットが遅刻して入ってくると、いきなり、倉庫の鍵が掛けてあるボードから11番を取リ上げる。文句を言った管理人は、痛い目に遭わされ、黙認するしかない〔それにしても、「11番」のドアなどは、どこにでみあるのに、なぜここだと分かったのだろう?〕。2人、プラス、フリータックが11番のコンテナを開けると、中にあったのは10個ほどのダンボールのみ。しかし、弁護士は、コンクリートの床についた、“何かが引きずられたような” 跡に着目し、敷地の奥に歩いていく。すると、そこには雑多なものが捨ててある(1枚目の写真)。その中にあったのは再び死体〔2人目〕。弁護士は、エングラー刑事に連絡すると、すぐにその場を立ち去る。死体の左手は、何かをつかんでいたように指が内側に曲がっている。すぐに駆けつけたエングラーは、手を詳しく調べ、「死体が握っていた物を、誰かが抜き取った」と推測する(2枚目の写真、矢印)。その頃、車の中では、弁護士が “死体が握っていた物” を調べていた。それは、新聞の切り抜きで、見出しは、「PEACE FÜR REX, WALDI UND MAUZI(レックスとヴァルディとニャースのための安寧)」〔レックスは恐竜のオモチャ、ヴァルディは犬のマスコット、ニャースはポケモンの猫キャラ/ペットの墓所の意味〕。記事の中央には、ドーム屋根を載せた建物が載っている(3枚目の写真)。「ペットの墓所だ。どこかで見たことがあると思ったら、あの子の病室に貼ってあった」(4枚目の写真)。フリータックは、「サイモンが過去と結びついてること、あなた、いつ認めるの?」と訊くと、ボーシャットは、「俺を信者にする気か」と茶化すが、弁護士は、「あの死体を見つけさせるために、誰かがサイモンを利用したとしたら?」と、最も蓋然性の高い意見を言う。ボーシャットは、それを聞き、「あのガキが鍵だな」と言い直す。   

一方、病室を抜け出したサイモンは、“ペットの墓所” に向かう〔どうして、正確な場所が分かったのだろう?/サイモンが交通費を持っているとは思えないし、“いつ死んでもおかしくない” 子が、歩いて行ける範囲でもないと思うのだが…〕。彼は明るいうちに病院を抜け出したが、目的地に着いた時には、辺りは、ほぼ真っ暗。墓所の聖堂が正面に見える(1枚目の写真)。サイモンは、真っ暗な中をあちこち捜し(2枚目の写真)、墓地の中から1つの墓を見つけ出す〔墓碑には「PLUTO」と書いてあるので、ペットの名前だが、なぜ、サイモンはそこが目的の場所だと分かったのだろう?/“Pluto” はローマ神話の “冥界を司る神” だが、それがヒント?〕。サイモンは、スコップで墓を掘り始め、子供の頭蓋骨を掘り当てる。「これは僕がやったんじゃない」(3枚目の写真、矢印)。サイモンは、穴も埋めず、頭蓋骨もそのままにして去る。  

サイモンは、聖堂に入って行く。その時、また言葉がサイモンの頭を過(よ)ぎる。「私は、正しいことをしていると信じる。神よ、もし、『橋』で邪悪な男を殺せと言われるのなら、御印を与えて下さい。私は、神の創りたもうた最悪の人間… 小児性愛者に変装して事を成し遂げます」。サイモンは、ロウソクに囲まれたキリスト像の前で十字を切ると、信徒席に座り聖書を読む。そこに走り込んできたのが弁護士。「ここで何してる?」(1枚目の写真)。「祈ってるのか?」。サイモンは頷く。「この古い教会で祈るために、はるばるここまで来たのか?」。「ええ。僕は、悪い人間だったから、神様に赦しを請わないと」(2枚目の写真)。「なあ、坊や。君は、悪いことなどしていない。いいか、神が、もし存在するとしたら、君のような小さな子供に、そんな悪いことなどさせはすまい」。「あなたに、理解してもらえるとは期待してない。カリーナは、何か悪いことが起き、あなたは、それを全然信じてないと言ったから」。「彼女が、そう言ったのか? 他には何て?」。「あなたは誰も愛してない。自分自身すら。だから、カリーナはあなたを捨てた」。「彼女、そんなことまで10歳の子に言ったのか」。そこに、フリータックとボーシャットが遅れて入って来る。サイモン:「あの人、誰?」。「ボーシェット、私の友人だ」。「サングラス、似合ってるよ」。ボーシェット:「クールな子だ」。カリーナが、墓の盗掘のことを話題にすると、サイモンは、「あれは、ルーカスだよ。彼の一部。15年前に死んだ。僕より、幼かった」と言う〔先ほどの、「PLUTO」の墓から掘り出した頭蓋骨のこと〕。弁護士は、「君はルーカスも殺したのか?」と訊く。「ううん、僕は、悪い男たちだけ。ここを見て」。そう言うと、サイモンは、『マタイの福音書』の18章6を読み上げる。「しかし、私を信ずるこれらの小さき者の一人をつまずかせる者は、大きな碾き臼を首にかけられて海の深みに沈められる方が、その者のためになる」(3枚目の写真)。「じゃあ、君は、彼等が子供達を傷付けるから殺したのか?」。「そう思うよ。それに、なぜ、新たに生を得て戻ったかも知ってる。もう1人殺さないといけない。明日、『橋』で」〔非常に重要な言葉だが、これは過去の出来事ではない。なぜ、明日、『橋』でなのか?→“『橋』で殺せ” は、頭の中の声がサイモンに指示することは確かだが、それは、あくまで抽象的なもので、“明日” という現実的な時限ではない〕。それからあまり時間が経っていない頃、署に電話が掛かってきて、「ペットの墓で子供の頭蓋骨を誰かが見つけた」ことが分かる〔誰が、電話したのか? サイモンが墓地に来てから誰かに見張られていたが、その人物か?〕。それを聞いたエングラー刑事は、「ティーフェンジー博士と話さないと」と言って席を立つ。  

一方、サイモン達4人は、ティーフェンジー博士のオフィス兼住所の建物の前に車で乗りつける。ボーシャットは、車のところで待っていると言うので、3人で建物の中に入る。建物に入ると、エレベーターには、「故障中」の札が掛かっている。サイモンには長い階段は登れないので、弁護士がおぶって居室のある階まで登る(1枚目の写真)。すると、故障しているはずのエレベーターが下に降りて行く〔誰かが、既に入り込んでいた〕。博士の部屋は開けっ放しで、3人がどんどん中に入って行くと、ホワイトボイードにサイモンに関する書き込みがある。「サイモン・サックス(10歳) SUBLIMINAL(潜在意識)?→CRYPTOMNESIA(クリプトムネシア)?」。この “クリプトムネシア” というのは、特殊な用語で、「the SKEPTIC’S DICTIONARY」によれば、「この語は、人々は本当にあったと信じているが、じつはすでに忘れられた出来事の記憶にもとづいている、そうした経験がどこから生じるのかを説明するのに用いられる。催眠術で誘導される、いわゆる前世回帰のほとんどは、クリプトムネシアで与えられたコンファビュレーションの内容となることが多い」と書かれている。ここで、“前世回帰” とは、前世にまで遡った記憶のこと。“コンファビュレーション” とは、記憶の中で無意識のうちにすり替えて作られた幻想のこと。このホワイトボイードの書き込みには、もう1つ矢印が書いてあって、その先は「?」だけになっている。実は、この最後の「?」が正解だと、最後に分かる〔“前世回帰” は、観客をミスリードさせるため〕。弁護士が、一番奥の扉を開けると、そこには血まみれになった博士が、息も絶え絶えの状態で横たわっていた(2枚目の写真)。そして、弁護が話しかけようとすると、絶命する。その時、以前と同じ “変調させた声” が響く。「遅すぎたな。輪廻転生でも、博士は助けられん」。それは、点けられたままのコンピュータから聞こえてくる声だった。弁護士は、コンピュータ画面のマスクを付けた男に向かって、「なぜ、殺した、このクソ野郎?!」と怒鳴る(3枚目の写真)。マスク男:「容疑者は少ない方がいい。もし、博士が何かを知っていたら、ペニスを切り取られる前に話しただろう」。  

サイモンは、かつての催眠療法のなかで、エレベーターで降りて行く場面が頭を過(よ)ぎる。そして、マスク男に、「あれは、あんたなの?」と訊く。「サイモン、お前なのか? とうとう会えて嬉しいよ」。弁護士:「この声に 聞き覚えがあるか?」。サイモンは頷く。「墓地で、少年を殺したのは、こいつだと思う」。「そんなこと言うな。あれは事故だったんだ。お前もパーティに出てたろ。事故は、その時起きた」。「これで分かった。僕が殺すことになるのは、こいつだ」(1枚目の写真)。「お前、本気で私を殺すのか? それは、どこで、いつ起きるんだ?」。「明日の夜。『橋』でだ」。「分かった。『橋』だな。ところでスターン君、我々の取り決めはキャンセルだ」。ここで、イスに縛り付けられた元妻の映像に切り替わる。「君は、本気にしてなかったんじゃないか?」。「彼女を傷付けないでくれ」。「悪いが、スターン君、私は、君から教えてもらわなくても、知るべきことはすべて知った」。元妻に拳銃が向けられる。「約束じゃ、24時間だったぞ。まだ、24時間経ってない」。「悪いが、取り決めは消えた。では、サイモン、明日会おう」。そして、元妻は射殺される(2枚目の写真、矢印は拳銃)。弁護士は、マイクを握ると、「この、クソッタレ! どうするか見てろ〔you're dead〕!」と怒鳴る(3枚目の写真、矢印はマイクのコード)。マスク男:「逃げた方がいいぞ。警察がそっちに向かってる。スターン君、さらばだ」。その時、室内の遠くで声がする。弁護士は急いで、かつ、静かに部屋の扉を閉める。そして、誰かが、扉の前に来ると、電光が光り、男が倒れたのが、すりガラス越しに見える。扉を開けると、そこに横たわっていたのは、電気ショックを受けたエングラー刑事だった。★ここまでで、観客が考えるであろう推測。①かつて、倉庫の中で、サイモンによって最初の白骨化死体が発見された後、弁護士とフリータックは警察に行き、エングラーと警官に会い、話をする。弁護士が帰宅すると、すぐに電話がかかり、DVDは既に届いていて、その中に、死んだはずの息子の現在の映像が入っている。②今回、墓地で少年の骸骨が見つかったという電話を警官が受け、エングラーは博士に会いに行くといって出かける。この2つとも、エングラーが、犯人である可能性を示唆している。エングラーは電気ショックを受けるが、自作自演かもしれない。ただし、弁護士の元妻を射殺した人間は別で、仲間だろう。他に、こんなにタイミングよく対応できる人間はいない。  

警察は、博士の死体だけでなく、元妻の死体も発見し、弁護士に対する疑惑が高まる。弁護士の方も、それを察し、ボーシャットに頼み、一晩 安全に過せる場所に連れて行ってもらう。それは、如何にもボーシャットらしい、大人向きの店だった。店の名前は、フランス語で「Chez CHOU CHOU」〔シューシュー(経営者の女性の名前)の家/“chou” には、あばずれの売春婦の意味がある〕と書かれ、大きなハートのマークが店の性格を現わしている(1枚目の写真、矢印は中に入って行くサイモン)。ボーシャットが中の扉を開けると、そこには全裸に近い女性が数名いて、サイモンの度肝を抜く(2枚目の写真、矢印はサイモン)。ボーシャットは、もっと赤裸々な部屋に入って行くが、入口から中を見たサイモンは、口をあんぐり(3枚目の写真)。すぐに、フリータックが手でサイモンの目を塞ぐ。サイモンは、手を外すと、「TVで見たことがある。ここ売春宿だよ(4枚目の写真)。女性がバーに座って男とシャンパンを飲んだら、あとは…」。ここで、今度は、口を塞がれる。   

誰もいない部屋に通された弁護士とフリータック。フリータックは、「ソフィー〔先ほど射殺された元妻〕は気の毒ね」と言うと、いきなり弁護士の頬を引っ叩き、「いったい、どうなってるの?」と訊く。「私の失敗だ」。「あの声は誰?」。「知らない。奴は、ソフィーを誘拐し、私が、あの2人〔サイモンが見つけた白骨化死体〕を殺した人物を見つけられれば、解放すると約束した」。弁護士はさらに、「あの声は、息子のフェリックスがまだ生きていると言った。そして、私にビデオを見せた。フェリックスが生まれてすぐ死んだ日。何が起きたのかは分からないが、あの子は、今、すごく健康で、可愛らしかった(1枚目の写真)。「あいつ、ビデオを見せたの?」。「10歳の誕生日の」。「そして、殺人犯を見つけろと?」。「奴は、息子がどこにいるか教えると約束した」。「さっきは、ごめんなさい。私が、あなたに、なぜサイモンを会わせようとしたか、知ってる?」。「彼を助けたかったからだろ」。「あなたを助けようとしたのよ。私は、2年間、あの子の世話をしてきたわ。彼は、重い病気なのに、決してあきらめない。病室で会った女の子、覚えてる? 彼女は白血病で、死を宣告されていた。でも、サイモンと会ってから、ずっと良くなったの。あの子は、自分の病気は変えられないけど、他の人に幸せをもたらしてくれる」。「君は、瀕死の少年が、私を助けてくれると、本気で思っているのか?」。「もう、助けてるじゃない」。その後、弁護士は眠りに就くが、悪夢で目が覚める。サイモンがいないので、心配になって1階に降りていくと、そこにはカツラを外したサイモンが立っていた。「どうしたんだ?」。「ごめん」(2枚目の写真)。「眠れないのか?」。頷く。「また 悪夢を見たのか?」。頷く。「今度は、奴の顔が見えたか?」。「ううん。でも、なぜ殺さなくちゃならないかは 知ってる。御印が与えられなくても」(3枚目の写真)。「御印って?」。「サイモン、私のためにやって欲しい」。「いつも、頭の中で声がするんだ」。「『橋』に行き、奴を殺せ」。「その声が、誰かを『橋』で殺せと?」。サイモンは頷く。「いかれた小児性愛者だ」。「なぜ?」。「あの、にやけた笑いめ…」。「赤ちゃんのためだよ。奴は、そこで赤ちゃんを売るんだ」。  

弁護士が、エングラー刑事と どう話をつけたのかは分からない。エングラーの車がトンネルの中で停まると、隠れていた弁護士とサイモンが後部座席に乗り込む。弁護士:「1人で来てくれてありがとう」。エングラー:「あんたを逮捕しちゃいけない理由でもあるのか?」。サイモン:「僕たち、何も悪いことしていない」(1枚目の写真)「僕は、誘拐されてないし、彼は誰も殺してない」。「君が殺したからか?」。「そうだよ。それに、もう1回 殺す」。「こんな話を聞かされるとはな。で、サイモン、君は誰を殺すんだ?」。「今夜会う男… 『橋』で」。弁護士:「私の依頼人〔サイモン〕によれば、今夜、赤ん坊がそこで売られるそうだ。どこの橋かな?」。「いい質問だが、間違ってる。『橋』は、いわゆる橋ではない。『橋』というのは、小さな子供に性行為をする会のコードネームだ。始終場所を変えるから、どこか突き止めることができない。サイモン、君は、行き先を知ってるのか?」。「まだ」。「君らくらい、イカレた2人組に会ったことはないな。だが、イカレてはいても、事実に基づいているみたいだしな。我々は、小児性愛者を殺し回っている連続殺人犯がいると考えていた」。「我々が発見した死体がそうなのか?」。「その通り」。その時、車は赤信号で停まる。「小児性愛者も、誰かが自分達を殺し回ってる奴がいるのは嬉しくないだろうな」。サイモン:「今夜、僕が、そいつを殺す」(2枚目の写真)。その時、車の横にバイクが停車する。そして、車内を確かめると、急発進し、少し先でUターンすると、すれ違いざまにエングラーを撃つ(3枚目の写真、矢印は拳銃)。男はバイクを降りて助手席の2人も殺そうとするが、まだ死んでいなかったエングラーによって射殺され、エングラーもそのまま死んだようにみえる。2人は、車から逃げ出す。★観客が考えるであろう推測は、筆頭容疑者のエングラーが死んだことで、崩れてしまったように見みえるが…  

弁護士は、ボーシャットに、「橋」が重要な手掛かりだと話す。すると、彼は、果物屋の前で車を停める。「ボーシャット、こんなとこで何する気だ?」。「ガキ〔『橋』の犠牲になる子供〕を捜す」。「果物の中で?」。ボーシャットは、店の近くの街灯に連れて行く。そこには、広告がいっぱい貼ってある。「数年前まで、小児性愛の奴らは、スーパーやスポーツ・クラブの掲示板を利用してた。今、変態野郎は、こういうトコを使ってる」。ボーシャットは、その中の1枚を剥がす。そこには、「KINDERBETT GESUCHT!(子供用ベッド求む!)/GEEIGNET FÜR KINDER VON 6-12 JAHRE(6-12歳の子供用)/SAUBER, BEQUEM, LIEFERUNG FREI HAUS(清潔、快適、無料配達)/TELEFON(電話) 005353-52 5778 13 4303」と書かれている(1枚目の写真、矢印)。ボーシャットは、紙を剥がすと弁護士に渡す。「誰かが子供用のベッドを求めてるだけじゃないか。これは違う」。「そんな長い電話番号見たことあるか?」〔目の付けどころが違う〕。ボーシャットは、さらに、「『快適』は、両親の合意だろう。『清潔』は童貞か処女、もしくは、エイズじゃないってことだろう。『配達』は…」。「『配達』は、配達だろ?」。そこで、隠された意味〔会のメンバーは、自由に弄ぶことができる〕に気付き、「冗談だろ?」。ボーシャットは、車に乗り込むと、「これから『ベッド』を求めてる奴のトコに行く」と言い、カーナビに、先ほどの「電話」のハイフォン以下を打ち込む〔前半が北緯、後半が東経/ただし、「60」を超える数字はない。映画では、52577まで入力するが、最後の7はあり得ない。もし、7を5に変え、「52°57'58"N 13°43'03"E」とすると、ベルリンの北北東50キロほどの場所を指す〕。車は林の中の工場跡のような場所に着き、そこからは歩く。すると、固定式のモービルホームから1人の男が出てきて、用を足し始める。ボーシャットに気付いた男は、慌てて中に逃げ込もうとするが、ボーシャットはドアを閉めて男の手を挟む(2枚目の写真、矢印)。弁護士:「乱暴は止せ」。「甘っちょろいことを言うな、スターン」。ボーシャットは、中に飛び込んで行くと、「貴様の腐ったダチの中で、赤ん坊を売り買いする奴はどいつだ?」と詰問する。否定する男を、投げ飛ばすと、「次の質問だ。ピノキオ・パーティ〔ピノキオにはオーラル・セックスの意味がある〕について、何を知ってる?」。これも否定。再度、投げ飛ばされる。そして、男の手を足で踏みつけ、折れるくらい力を込めて、「『橋』と呼ばれる場所は どこだ?」と訊く。これも否定。ボーシャットが、貼ってあった紙を男の口に捩じ込み、「頭蓋骨を割ってやる」と脅すと、「『橋』は、ほんとの橋じゃない。パーティの名前だ。いつも場所を変える」と、既に分かっていることを答える。「今夜はどこだ?」。男は、知らない理由を並べて許しを乞うが、ボーシャットの暴力はますます激しくなる。弁護士が、「もう止めろ」と言うと、拳銃を取り出して弁護士に向け、「外に出てろ」と強要する。弁護士が出た後の室内の様子は映らないが、凄まじい音が聞こえる。弁護士が鉄の棒を拾って助けに行こうとすると、ボーシャットが出てくる。「行くぞ」。「完全に狂ったな」。「あのクソ野郎は、潔白じゃない。子供を獣のようにレイプした。あいつに勲章でもやるのか?」。「君は、あいつを殺すところだったんだぞ。なぜだ?」。ボーシャットは、ポケットから、奪ってきた写真を取り出し、「これが、何でもないか? 自分の目で確かめたらどうだ!」と言って、鉄板の上に投げつける。「あんたのお友だちは、これをベッドの下に隠してたんだぞ!」。弁護士が見ると、それは、10歳以下の少年少女の全裸写真だった(3枚目の写真)。ボーシャットは、車に乗る前に、「『橋』のパーティに多額の金を払ってる夫婦がいるそうだ。これから会いに行く」と言う。  

ボーシャットは、男から聞き出した場所に弁護士を乗せていく。そこは街の中なので、ボーシャットは、「橋」はここではなく、単なる 待ち合わせ場所じゃないかと言う。「私は、どうしたらいい?」。「さあな。即興でやるんだな」。ボーシャッが 建物の反対側の少し手前で車を停めると、弁護士はそこから1人で建物に向かう(1枚目の写真、矢印は弁護士)。彼が中に入って行くと、使われていないイスを積み上げた大きな宴会場のような場所に、1人だけ若作りをした60代の女性がいて、テーブルの前に 受付のように座っている。そして、初顔の弁護士を見ると、「予約なんかしてあった?」と訊く。「ハリー〔さっき ボーシャットが痛めつけた男〕から聞いた」。「何か身分の分かるものを見せてもらえる」。女性はそれを見ると、「スターンさん、服を脱いでもらえる? 安全のためよ」と言う。外では、そこに、フリータックが車で乗りつける。「サイモンの具合が良くないの〔咳が止まらない〕。ロバートはどこ?」「薬局に行って来るわ。ここで待ってて」〔サイモンを、ボーシャットの車に移す〕。建物の中では、弁護士が服をすべて脱がされ、携帯用の金属探知器で調べられる。それが済むと、右手に裸の少女の写真、左手に顔写真入りのIDカードを持たせ、写真を撮られる(2枚目の写真)。これで、初めて服を着ることが許される。「で、秘密のパーティに参加したいのね?」。「ああ」。「誰を一緒に連れて行きたい?」。これは、予想外の質問なので、弁護士は戸惑う。「そんな条件があっただなんて、知らなかった」。「じゃあ、同伴者は誰もいないの?」。「必要なのか?」。「ハリーが話さなかった?」。「遠回しに言ったのかも… 私には少年がいる」。「なら、その子と一緒に戻ってくるのね」。「その子なら、外で待ってる」。「連れてきたら?」。「今?」。「もちろん」。弁護士が車に戻ると、車の中にサイモンがいた。弁護士は、サイモンを連れて建物に戻る。女性:「あなたの名は?」。「サイモン」。「ちゃんとしたクリスチャン・ネームね。年はいくつ?」。「10」(3枚目の写真)。外では、フリータックが戻って来て、サイモンがいないことに気付く。「サイモンは?」。「中だ。ロバートはドアを見張ってろと言った。すぐに戻るさ」。不安になったフリータックは、中を見に行く。しかし、フリータックが入って行くと、中は空だった。2人の名を叫んでも、返事はない。そこで、外で待っているボーシャットにすぐ電話する。「何だ?」。「誰もいない。空っぽよ!」。その時、建物内の駐車場から1台の車が出てくる。それを見たボーシャットは、「すぐ出て来い」と指示する。  

建物から出てきた車は、女性が運転し、後部座席には、2人が目隠しをされて乗っている(1枚目の写真)。その車を、目視できる距離でボーシャットの車が追う。そこに、車に戻ったフリータックが電話をかけてきて、「今、どこにいるの?」と訊く。「ポツダム広場〔都心の西南西2キロ〕を西に向かってる。黒のボルボだ」。「了解」。ボルボと、その2台後ろのボーシャットのBMWは、赤信号で停車する。しかし、信号が青に変わった時、前から調子の悪かったBMWはエンストしてしまい、再びエンジンがかかった時には、信号がまた赤になってしまう。ここで待たされたら見失うので、ボーシャットは交差点に突っ込んでいき、真横から衝突され、交差点の真ん中で水平に一回転して大破。一方、ボルボの中では、頻繁にサイモンが咳いている。大破したBMWからよろよろと外に出たボーシャットは、霞む目で、ボルボがかなり先で右折するのを確認する。そこに、ようやくフリータックが到着。ボーシャットは、ボルボが右折したことを伝えると気を失う。フリータックは、救急車などは集まった群集に任せ、すぐさまボルボが向かったらしき方向に車を発進させる。一方、ボルボは、大きな邸宅の中に入って行く。部屋の中に入ると、目隠しを外すように指示される。弁護士は1人用のイスに、サイモンはソファに座らされる。女性は、拳銃を構えたままだ。その時、女性の夫の、陽気そうな老人が階段を下りてくる。そして、サイモンを見て、嬉しそうに、「来たか」と声をかける。「チャーミングだ。飛び抜けてチャーミングだ」と言いながら、サイモンの横に座る。「ハンサムな坊や。君の名は?」(2枚目の写真)。ここで、サイモンが咳く。妻:「サイモンよ」。「2人は、我々と一緒に『橋』に来たいのか?」。「私は、賛成しないわ。そっちの男性は、全く経験がなさそうだし、子供はずっと咳きっ放し」。「『橋』は、清潔な者だけが許されるからな」。そこに、老人の携帯に電話が入る。「そうか… いいや、よく分かった。ありがとう、とても役に立った」。そう話して電話を切ると、「ここには、名士がお見えのようだ。我々のお客は弁護士で、警察に追われている。その罪に加え、スターン氏は、病院から子供を拉致した」。女性は弁護士の首に拳銃を突きつけ、「スターンさん、あんた、何を画策してるの?」と詰め寄る(3枚目の写真)。「何も画策などしてない。パーティに参加したいだけだ」。「スターンさん、もしあんたが本当に我々の仲間なら、君の連れて来た少年は、『橋』には少し年上過ぎると知ってるはずだが〔広告には、6-12歳と書いてあったので、この言葉は、断るための口実か?〕。弁護士は、「あんた達は、被害妄想が過ぎるようだ、サイモン、ここを出るぞ」と撤収を図る。「なぜ、そう急ぐ? この子は、『橋』には大き過ぎるかもしれが、わしにはそうじゃない。さあ、一緒においで」。サイモンは老人に2階に連れて行かれる。  

2階には、ラッパ型の蓄音機から音楽が流れ、手術用のテーブルの上には、様々な器具と薬品が置いてある。サイモンは、上半身シャツだけにされ、後ろ手に縛られ、手術台の端に座っている。その前で、老人は音楽に合わせて踊る。そして、サイモンの横に腰かけると、「お医者さんごっこをしような」と話しかける。「何か、心配なことはあるかね?」。「脳に腫瘍があるよ」。「伝染するのか?」。サイモンは肩をすくめて咳く。「分かった。もっと慎重にしような」。1階では、弁護士が、「2階では何をやってる?」と訊く。「リラックスなさい、ストーンさん。1時間とはかからないわ。そしたら、夫は一休みし、次は私の番」。もう一度、2階。老人:「君は、変わった子だね、サイモン。私のことを、全く怖がっていないように見える」(1枚目の写真)。「怖くないよ」。「ないのか? 君は、自分がすごく魅力的だって、気付いてるかい? もっと きれいにしてあげような」。老人は、白粉を持ってサイモンの前に来る。「あんたが、何をしようとしてるか、知ってるよ」。「そうか? じゃあ、君は、ハンサムだけじゃなく、頭がよくて、ユーモアがあって、未来を見通せるんだな」。道に迷ってしまったフリータックは、通りがかった長い塀に、今まで何度も出てきた “星をかたどったカルトの印” があることに気付き、車を停め、塀を乗り越えて中に侵入する。弁護士が、手錠をはめられ、銃を突きつけられて階段を上がっていくと、フリータックが、「ロバート?」と呼ぶ声が聞こえる。その声に驚いて振り向いた女性の顔めがけて、弁護士が手錠で縛られた両手を叩き付ける。2人は一緒になって階段を転がり落ち、女性は死亡する。三度目の2階。サイモンの化粧が終わり、不気味な顔になっている(2枚目の写真)。老人は、満足そうに、「息をのむほど美しい」と言うが、サイモンは、「あんたは邪悪な男だ」と言葉を返す。老人は、鉗子を手に持つと、「わしが如何に邪悪か、見せてあげようか?」と訊くが、サイモンは、「あんたが誰が知ってるよ」と言い出す。「そんなことは不可能だな、坊や」。「あんたの名前は、ハンス・スティーマー」。この一言で、老人の顔色が変わる。「あんたは、20年以上にわたって子供たちを虐殺してきた。自分の名前を隠すため、弁護士の知識を活用してね」。それを聞いた老人は、後ろ手で こっそりビニール袋を取り上げる(3枚目の写真、矢印は、虐殺記録用のビデオを映したモニターに映ったビニール袋)。サイモン:「あんたは、すぐに死ぬ」。  

次の瞬間、老人は、サイモンの頭にビニール袋をかぶせ(1枚目の写真)、首の部分にテープを何重にも巻き、窒息させようとする。老人は、悶え苦しむサイモンに向かって、「どうだ、サイモン? 死ぬのは素晴らしいだろ?」と訊く。その時、1階まで落ちて一時気を失い、心配になってやってきた弁護士が、ドアまでやってくるが、鍵がかかっていて入れない。老人は、サイモンのシャツを切り始める(2枚目の写真)。弁護士は、ガラスに頭から体当たりし、“邪悪” な部屋の中に転がり込む。そして、老人が拳銃をつかむ前に、ビデオカメラを載せた三脚を両手でつかむと(3枚目の写真、矢印)、変態老人の顔を強打する。  

弁護士は、すぐにサイモンの手術台に走り寄り、何重も巻かれたテープをハサミで切り、ビニールを手で裂く。しかし、サイモンは息をしていない。弁護士は、両手で胸を必死に押し、口から息を吹き込んで、何とか蘇生させようとする。「生きてくれ、サイモン! お願いだ、生きてくれ! 大事な友達だろ! 頼むから、生きてくれ! サイモン!!」。その必死の声が、サイモンの耳から脳に伝わり、サイモンが咳き込む。「僕の名を呼んだね」(1枚目の写真)。弁護士は、嬉しくて、サイモンの顔じゅうにキスをする。2人の関係は、父と息子に近づいている。その時、老人が気がついたのを見た弁護士は、足で思い切り蹴飛ばしてから、手錠を外し、手術台に戻るとサイモンの手を縛ったテープをハサミで切る。その頃、フリータックは、階段の下で死んでいる女性を発見している。2階では、弁護士が変態老人を拘束する。そこに、フリータックが、「サイモン」と呼ぶ声が聞こえてくる。サイモンは、「カリーナだ。助けに来たんだ」と言って立ち上がる。「彼女のところに行くんだ」。「その人、すぐ死ぬよ」。「いいから、行くんだ」。しかし、サイモンが部屋から出ると、家の中の照明がすべて消える。2階の手すりまで来たサイモンは、1階にいるフリータックを見つけ、「カリーナ」と呼びかける。サイモンは嬉しそうに階段を降りようとするが、フリータックは何者かによって電気ショックを受けて床に倒れる。階段を途中まで降りてきたサイモンは、「あんたなの?」と驚く(3枚目の写真)。「やあ、サイモン」と声が聞こえる。そして、2人の姿は消える。そうと知らず、2階では、弁護士が変態老人を鎖で縛り上げ、「『橋』はどこだ?」と訊くが、老人は、「教えたら、殺される」と教えるのを拒む。「教えないと、代わりに殺してやる」。そして、銃を突きつけて、何度も腹を殴る。しかし、弁護士には人は殺せない。そこで、老人は放置し、フリータックの様子を見に階段を下りてくると、彼女が床に倒れているのを見つける。気がついたフリータックに、「サイモンはどこだ?」と訊くと、「知らない。そこにいたのに」という返事。すると、車が出て行く音がし、誰かにサイモンが連れ去られたことが分かる。2人は急いで外に出て車を出すが、どっちに行けばいいのか全く分からない。  

しばらく走らせてみるものの、行く当ては全くないので、フリータックはあきらめて交差点で停まる。弁護士は携帯を取り出す。「それ誰の携帯?」。「バカがこれを使って誰かと話してた」。弁護士が通話記録を調べると、通話先は、レストラン船「Le Pont〔フランス語の橋〕」だった。弁護士は、このレストラン船こそ、『橋』に違いないと確信し、すぐそこに向かう(1枚目の写真、矢印は「橋の絵に挟まれた “Le Pont” の文字)。2人が船に乗り込むと、いきなり女性の声が聞こえる。それは、少し前に射殺された弁護士の元妻が、10年前にフェリックスを産む前に、夫である弁護士に向けて話したメッセージのビデオ録画だった。その中で、彼女は、①あなたを愛していない、②別れたかったのに妊娠した。このまま産めば、永久に別れられない、③そこで、中絶しようと医者に行き、1人の男と出会った、④彼は、フェリックスを殺さなくても済むよう、違法な養子縁組をお膳立てしてくれた、⑤医者と助産婦は、フェッリクスが死んだように振舞った、という内容〔映像を流した謎の男は、弁護士が『船』に来ることを予想して、用意万端整えていた〕。これで、弁護士に送りつけられたフェリックスの映像の意味がよく分かる。映像が終わると、2人は奥に入って行く。そこは、怪しげな道具がいっぱい置いてある大きな部屋だった。すると、いきなり、声がする。「ブラボー、時間通りに現われたなスターン君」。「お前は誰だ?」。現われたのは、エングラー刑事(★やはり、予想通りだった)。弁護士:「死んだんじゃなかったのか?」。「君が見たのは、カプセルの血と、割れたフロントガラスだけだ」。フリータック:「サイモンはどこなの?!」。「静かにしろ。やがて分かる」(2枚目の写真)。エングラーは、弁護士に鎖を手に巻くよう命じる。さらに、フリータックの両手を、天井から吊るした拷問拘束用の手錠で固定させる。そして、火災時の緊急脱出用マスクをはめさせる〔もちろん、拳銃で脅してすべて弁護士にやらせる(自分の指紋がつかないようにするため)〕。このエングラーは、最悪の悪漢だが、刑事でもあり、今は多くの警官をレストランの周りに配置して全員を罠にかけようとしている。だから、携帯で、外の部下に、「容疑者は全員セックス・パーティに参加中だ。合図があるまで待機しろ」と命じる。弁護士は、「お前は、人殺しというだけでなく、私たちを殺し、それを正当化する気だな」と言う。エングラー:「刑事の安月給で生きていけると思うのか? 俺のプランは完璧だった。望まれない子を、欲しがっている親に売りつける。それで、弁護士以上に稼いだ」。それだけ言うと、最後のステージに入る。エングラーは、シーツをはがし、“これが虐待の犠牲者だ” といった感じで、サイモンを見せる(3枚目の写真、矢印は胴体を手術台に固定するベルト)。  

エングラーは、弁護士をサイモンの前に来させる。その時、1台の車が近付いて来る。エングラーに連絡が入る。「容疑者が接近しています」。エングラーは、弁護士に近づくと、「この時を15年、待っていた」と言い、弁護士に、変態男がつけるような黒い覆面をかぶらせる。これで、一見すれば、“小児性愛者が、サイモンを拷問にかけようとしている” 構図ができ上がる。そこに、拳銃を構えた男が入って来て、「その子に触るな」と命令する。弁護士が振り向くと、「下がれ!」と命令する。それは、①映画の最初に、ICUでサイモンのベッドの隣にいた男、②病院のサイモンに会いに来た弁護士がぶつかって車椅子から転落させた男ロザンスキー、だった。ロザンスキーは、サイモンを手術台に固定してしたベルトを外しながら、覆面男(弁護士)に向かって、「私は、お前を見つけ出すために、全生涯を捧げてきた。お前に、神の存在を否定する客どもと同じ辛酸を舐めさせるために。私は、神の定められた第五戒〔汝殺すなかれ〕を破ることになるが、きっと お許し下さるだろう。今日、お前は、最後の子供を虐待した。この野蛮で下卑たクソ野郎め」と吐き捨てるように言う。弁護士は、かつて病院で看護士にさせられたことを思い出し、両手を上げて、その場に跪く。ロザンスキーが覆面を外すと、弁護士の口には、口がきけないようにするための金属製の特殊な器具が装着されていた。これで、弁護士が拷問者ではないと悟ったロザンスキーは、「お前は誰だ?」と訊くが、予定が狂って怒り心頭になったエングラーによって、その場で射殺される。銃声がしたことで、エングラーは、直ちに警官隊に突入を命じる電話をかける。そして、銃を弁護士に向けるが、その瞬間、サイモンは、横の台に置いてあった千枚通しをつかむと(1枚目の写真、矢印)、そのまま腕を180度回転させて、エングラーの首に突き刺す(2枚目の写真。矢印)。 

弁護士が、サイモンの座った車椅子を押し、その横を、フリータックが歩いている。サイモン:「じゃあ、僕は、あの人たちを殺してないの?」。弁護士:「君が殺したのは、私を撃とうとした男1人だけだ。君が言った通りに」。「でも、それって変じゃない? 僕、死んだ人たち、みんな覚えてるよ」。フリータック:「医者に言わせると “潜在記憶〔過去にどこかで得た記憶が、無意識のうちに出てくるもの〕” と呼ばれるものよ。あなたがICUで昏睡状態にあった時、隣にはロザンスキーさんがいたの」。「彼は、君の前で、自分の罪を告白したんだ」。ここで、過去の映像に切り替わる。ロザンスキーが、サイモンの横に跪き、祈るように話しかける。「坊や、どうか頼みを聞いて欲しい。君は、じきに神の元に召されるだろう」(2枚目の写真、矢印はロザンスキー)。弁護士:「彼は、君が聞いてるなんて、考えもしなかったんだ」。フリータック:「でも、あなたの脳は、彼の言ったことを、それが自分の記憶であるかのように覚えてしまったの」。ロザンスキー:「私の務めは、奴ら全員に鉄槌を下すことだ。『橋』に行き、全員を殺す」。サイモン:「僕、意識不明だったのに?」。弁護士:「でも、脳は聞いてたんだ」。「じゃあ、ティーフェンジー博士の部屋で、すべてが一気に甦ったの?」。「フィードバック部門がすべての始まりね。お陰で、前世の記憶かと間違えてしまったけど」。「だから、輪廻転生じゃなかったんだ」。「僕ってバカだね。神様から特別な任務が与えられたと思うなんて」。「バカなもんか。すごいことを やってのけたじゃないか」(3枚目の写真)。  

弁護士は、サイモンを、そのまま自分の家に連れて行く。そして、両手で目を隠すよう言う。「まだまだ、もう少しだ」。「どうして、見ちゃいけないの?」。「そぐそこだ」。そして、手を放すことが許される。サイモンの前にあったのは、サイモンの個室。それも、一面砂が敷き詰めてあり、まるで海岸の砂浜のようだ(1枚目の写真)。「これ、砂浜だ!」とサイモンは大喜び(2枚目の写真)。フリータックが、フラワーレイを首にかけてくれる。「これは、第一弾で、このあと、本当の海岸にも行くぞ」。そこに、事故で両腕を骨折したボーシャットが、ギブスをした両腕の上に、巨大なアイスクリーム入りのボウルを持って現れる。「世界一巨大なアイスクリームを注文したのは誰だ?」。サイモンは、車椅子から降りて、アイスクリームまで歩いていくと、「全部、僕の?」と訊く。「全部、君のだ」。「食べていい?」。「もちろん」。ボーシャットは、ボウルを下げ、サイモンは顔を突っ込んでがぶり。「あなたたちから、僕のために、こんなことしてもらえるなんて、思わなかった」(3枚目の写真)。弁護士は、サイモンを抱きながら、「友達を過小評価するな」と言う。サイモンの生涯で最も幸せな時だ。ボーシャットは、「ほら、おいで、遊ぼう」と声をかけ、サイモンは、サッカーボールを取りに行こうとし、砂につまずいて倒れる。サイモンは、盛った砂の上に仰向けになる。サイモンがまた咳いたので、フリータックは「水を持ってきてあげる。すぐ戻るから」と言って出て行く。  

代わりに、弁護士がサイモンの横に寝ると、顔を見ながら、「気に入ったか?」と訊く。「雑誌の中みたい」。そう言うと、大事に持っていた雑誌の切抜きを取り出して見せる。例の “翼を広げた天使の像” のある海岸の写真だ。「確かに、雑誌そっくりだな。約束しよう。次の化学療法が終わったら、ここに連れてってあげる。ちょうどこれと同じ日没の時間に」(1枚目の写真、矢印)。「すごいね。でも、僕…」と言いかけて、何かが胸から出てくるような顔になり、肺から吹き出した血が口を伝って首まで流れ落ちる。フリータック看護婦は、医療鞄から万が一の時の注射器を取り出してすぐに打つ。サイモンは、「これでいいんだ。悲しまないで。とても楽しかった」と言う。弁護士は、「私も悲しくないぞ。今日は、一生で最も幸せな日だ」と語りかける。「僕もだよ」(2枚目の写真)。「これは最高の…」。もう声が出ない。弁護士はサイモンの口に耳を寄せ、囁くような声を聞く。そして、涙を流す(3枚目の写真)。  

場面は、海辺に変わる。弁護士とフリータックは、展望台のような場所に立ち、フリータックが持った陶器の壷から、サイモンの灰を海にまいている。まき終わると、壷を木の手すりの上に置く。正面には、雑誌に載っていた “翼を広げた天使の像” が立っている(1枚目の写真)。フリータックは、「あなた一度も話さなかったわね。サイモンは、死ぬ前に何て言ったの?」と訊く。「心配しなくていい。またすぐ会えるから、って」。「次の人生で会うってことかしら?」。「会えることに、すごく自信があるみたいだった。この浜辺でだ」。展望台から戻る途中、弁護士は、砂浜で1人で赤い凧を上げている少年に惹かれる(2枚目の写真、矢印は凧)。その少年の凧は、サイモンの病室にあったものと同じだった〔サイモンの夢の写真の中にも、赤い凧が出てくる〕。弁護士は、1人で砂浜まで下りて行き、少年の背後から近づく。少年の首にあったものは、死んだと思っていた息子の母斑。エングラーが死んでしまい、永久に会えないと思っていたフェリックスだった(3枚目の写真、矢印)。映画は、この場面で終る。フェリックスの中にはサイモンがいるのだろうか? 確かに、サイモンは、弁護士に、この浜辺で、すぐに再会できると言っていた。しかも、サイモンが好きだった凧もある。この少年は、誰なのだろう? 肉体はフェリックスだが、サイモンの一部が脳の中に “潜在記憶” の形で入っているのだろうか? その“潜在記憶” が、この日のこの時間に、この浜辺でこの凧を揚げさせたのだろうか? ★フェリックスとサイモンは同じ年齢。ひょっとしたら、誕生日も同じかもしれない。そして、サイモンには、以前書いたように誰一人肉親がいない〔いれば散骨の時、現われるはず〕。何だか2人は1人の人間のような気がする。サイモンは、フェリックスが、自分を本当の父親に会わせたくて生み出した分身。だから、用が済むと、すぐにこの世から去る。サイモンはフェリックスが好きなものを全部受け継いでいる。“翼を広げた天使の像” にいつもやってきて赤い凧を揚げるのが、フェリックスの一番好きなことだったに違いない。サイモンの記憶、特に、弁護士のロバート・スターンと、看護婦のカリーナ・フリータックに対する愛情は、そのままフェリックスに受け継がれていくであろう。そして、フェリックスとして生きる。そう考えたい。  

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